「あ、ひさしぶり。」
ルカ―相沢瑠華は、笑顔で迎えてくれた。
「この前、予備校で見かけたよ。てっきり大学行ったかと思ってた。」
「うん、短大しか受かんなくてね。どうしても四大に行きたくて・・・。ユーシくんは、医学部目指してるって言ってたよね。」
「うん・・・、手に職付けるには医者が良いなと思ってね。」
「私は、看護学部目指してるんだ。」
「あ、そうなの?!」
裕士は、一瞬妄想した。相沢瑠華が白衣を着た看護婦で、自分は医者として、一緒に大病院のロビーで話している姿を。お目出度い男だ。それを知ってか知らないが、ルカは、裕士の妄想とは繋がらない答えをした。
「助産師になりたくてね。私も、手に職付けたくてね。助産師さんなら、女手一つでも開業できるしね。」
「そうか、開業か・・・。そうだよね、俺も開業したいけど、その前に医学部に行けるかが、大問題だよ。試験はさっぱりだしね。」
「あー、この前全国統一模試で隣だったよね。ユーシくん、難しい顔してたから、声掛けられなかったよ。」
「実は、試験に行く前に、海岸線を走ってたら、警察に捕まったんだよ。」
「え、なんで?裸でランニングでもしてたの?」
ルカはいたずら好きそうな目をして覗き込み、屈託無く笑った。裕士の知っている高校時代の物静かなルカと違う一面を垣間見た気がして、裕士はどきりと恋をした。
「え、あ、違う違う、バイクで走ってたんだよ。スピード違反。40キロオーバーで、一発免停だよ。まあ、捕まったのもショックだけど、『職業は?』って警官に聞かれて、『浪人生だ』って答えたら、『無職』だってさ。いまさら気付いたけど、俺達、社会から見れば、無職なんだってね。あー、切ないね。」
「・・・、そうか。必死で毎日勉強してたけど、改めて言われると、確かにそうだよね。来年は、二人とも受かると良いね。」
裕士は、何のたわいも無く、ごく自然にルカと自分が話している事が意外だった。こんなに簡単な事なのに、何で高校の時は、腫れ物に触るように、話す事を避けていたのだろう。きっかけさえあれば、実に何てことはなかったのに。高校三年分の想いから堰を切ったように話したい事柄で胸は溢れた。ハナシタイコトガ、イッパイアルンダ。裕士は、このままずーっと、こうして話してたかった。そう思った裕士にルカは、思ってもみない提案をしてきた。
「バイクかぁ。裕士くんのバイクって大きいやつ?」
「うん、250CCの中型。」
「わたしバイクの後ろって、乗ってみたかったんだ。」
これって誘われてるのか?このチャンスを逃すな裕士。がんばれ、俺!
「あ、じゃあ今度、ドライブしようか!」
「え、良いの。うれしいな。」
「確か、裁判所に呼ばれるまでは、この赤切符で運転して良いって、白バイが言ってたから、近い内になら、まだ乗れるよ。ちゃんと、安全運転するからさ!」
「迷惑じゃない?」
「ぜんぜん。メットを二つ用意しとくよ。」
「じゃあ、明日は用事があるから、あさって図書館で会わない?」
「OK!」
二人は携帯電話をくっつけて赤外線で、電話番号を交換した。席に戻ると、再び勉強をし始めた。金曜日の今日は特別に夜七時まで図書館は開館している。ルカは暗くなる前に帰ったが、帰り際にアイコンタクトで手を振った。まるで付き合ってるみたいだと、裕士は浮かれた。ルカに猛勉強をしている姿を見せたいという格好付けもあったかもしれないが勉強がとても捗って、気が付けば、二年分の過去問題を解き終えた。外に出ると、コオロギが鳴いていた。見上げた白色の街灯に目を細めた。一条の光となって照らし出された空間には無数の小さな虫たちが飛び交っていた。深呼吸をすると、深々とした草の匂いがして、五感を刺激された。この世は、なんて生命の煌きに満ち溢れているんだ。今まで余裕が無かったのか、こうして自然を感じたのは久し振りな気がした。裕士はとても幸せな気分だった。バイクのエンジンキーを回して、アクセルを二度ふかすと、軽やかに図書館を後にした。バイクを走らせながら感じた夜の風は、しっとりとした秋の潤いを含んでいた。十九歳の夏ももう終わる。迫り来る季節の変わり目は夏の熱気を素早く奪い、ひんやりとした肌寒さに、裕士は人恋しさを募らせた。
**************【次回へ続く】*********************
やっと原稿用紙、100枚を越えました。あとこの2倍書けば、終わりそうです。
注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。
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