裕士は追った。彼女の顔の怪我を見て、追わずにはいられなかった。じきに追いつくと、ルカは走りつかれたのか、立ち止まった。立ち止まると、傷だらけの顔を隠すように、裕士の胸にしがみついてきた。そして、泣いた。
ただ、ただ泣き続けた。裕士は立ち尽くして、抱きすくめる事しかできなかった。
「裕士くんだけには、見られたくなかった・・・」
ルカは、ぽつりと呟いた。
どうしたの?とは、裕士は聞けなかった。聞いてはいけないような気がした。ほどなくして、ルカは泣き止んで歩き出した。
「お父さんに、お酒を買いにいかないといけないの・・・。」
裕士は黙って横に並んで、酒屋までの道のりを一緒に歩いた。酒屋までは、二人は何も喋らなかった。握ったルカの手が、妙に冷たい事を裕士は気にしていた。酒屋に着くと、酒屋の蛍光灯に目を細めて、ルカは店に一人で入っていった。迷いもせず、慣れた様子で棚の前に行き、ある銘柄の一升瓶を手にすると、彼女はすぐに出てきた。帰りは、川沿いの道を歩いて帰った。裕士は、一升瓶を持ってあげた。瓶は思いのほか、ずしりと、重かった。二人は、川を見ながら歩いた。川は音も立てずに静かに流れていた。漆黒の空を映した水面は、まるでこの世の全てを飲み込んでしまうように、重く、巨大な生き物のようにうねって流れていた。しばらくして、ゆらぐ水面に心解かされたように、ルカが話し始めた。
「ごめんね、急に行けなくなって・・・」
ルカの顔に只ならぬ事態を察せざるを得ない裕士は、ううん、と首を振った。
「お父さんがね、時々、暴れるの・・・。お父さんの事悪く言いたくないんだけど・・・」
と言って、ルカは再び泣き出した。
「いいよ。」
裕士は、ルカの頭を撫でた。
「ほんとうはね、今日凄く楽しみにしてたんだ・・・」
泣きじゃくるルカを抱きすくめながら、裕士は自分でも思い掛けない事を提案した。
「今からでもいいから、行こうぜ!」
「え、でも・・・」
裕士は、ルカの手を握って、走り出していた。ルカの事情は良く判らない。ただ、決して彼女にとって良い状況であるはずが無い。とにかく、遠くへ。ここじゃない、どこか遠くへ、彼女を連れ出したかった。俺が連れ出してやる。信じるなら、着いて来い!きっと、今よりは良いはずだ!
ルカのマンションに着くと、裕士は、自分でも驚くほど冷静に彼女を言いすくめた。
「酒を置いたら、すぐに出て来い。行こう。今日は何が何でも約束通り、海まで行こう!」
ルカは、裕士の気迫に押されたように、頷いて、家に走っていった。裕士は、ルカの後ろ姿に投げ掛けた。
「三分経っても出てこなかったら、俺が連れ出してあげる!」
裕士が考える間もなく、すぐにルカが飛び出してきた。ブルン・・・バイクにキーを差し込み、ルカにヘルメットを被せると、飛び出すようにバイクは走り出した。
「しっかりつかまって!」
ルカが裕士に回した手にぎゅっと力が入った。
**************【次回へ続く】*********************
注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。
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