2009年7月10日 (金)

立て!鏡のような波頭の上に 47話 彼が医者になりたい理由

 裕士は愕然とした。自分はお金を稼ぐために医者を目指したが、取り立てて成りたい医師像というものが無い事に気付かされた。赤ひげ先生のような篤い気持ちが自分にあるのかどうか判らなかった。病弱な自分を助けてくれた医師に感動して、はたまた、肉親の手術に立ち会って直してくれた医師が神のように見えて憧れた云々、といったことは全く無く、齢十九に成るまで至って健康、医者にかかった事は健康診断くらいしかない。ネットサーフィンをしていて、或る市の年収が公開されていた。その給与序列を見ると市役所の最高位たる市長は年収1千万円強。なんとびっくりしたのは、市長の上に「医師」が年収三千万円で君臨していた。これを高校二年の時に見て決めた。さらにネットサーフィンで辿り着いたのが、レーシックの執刀医募集の年収四千万円也。あーもうこれしかないと思った。週五日勤務で四千万円はいらない。週四日勤務で年収三千万円もあれば充分だ。医師の求人サイトには、週四日の募集も出ていた。

「レーシックの執刀医で、週四日勤務で年収三千万円で、あと三日はゴルフやクルージング三昧の医者になりたい。」

 とはルカに言えなかった。あまり不純すぎる。はたしてこんな金の亡者のような自分が人様の生命を扱う医者に成っていいのかさえ疑問に思えてきた。保険診療点数を稼ぐために、ホームレスを集めて入退院を繰り返させ、診療報酬を不正受給して逮捕された病院のニュースが頭に浮かんだ。黙り続けている裕士にルカは自分の動機を話してきた。

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

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2009年7月 9日 (木)

立て!鏡のような波頭の上に 46話 街角では少女が自分を売りながら あぶく銭の為に何でもやってるけど

 ――家ヲ出タイノ・・・裕士は、ユイとミカを思い出した。彼女達は、家を出て、自分の体を売ってでも力強く生きている。ある意味自由であり、輝かしい生命力に溢れている。裕士は軽蔑するつもりはなく、本心でそう思った。どこでも、どんな方法でも生きていける逞しいほどの生活力。尊敬の念さえ感じる。果たして自分はそこまでしたたかに生きていけるだろうか。

「だったら、今すぐ出ればいいじゃん。」

 ユイやミカに比べれば、じれったく思えたルカに裕士は少しの邪気を込めて言い放った。しじまが流れた。やがて、灯台の光が一周した。ルカは思い口を開いた。

「・・・、私の友達にも家庭の事情で家を出た娘がいるわ。私だってすぐにでも家を出たい。でも、高卒で家出をした女の子が働ける場所なんて限られてる。中には、売春まがいの事をしてお小遣いを稼いでいる娘だっているけど・・・、私にはできないわ。それだったら、死んだ方がましよ。」

 瞬きをしないまま話すルカの頬を一筋の涙が伝った。裕士は悪い事を言ったなと思った。ルカは続けた。

「あと半年だもの。あと半年我慢して大学に入ったら私の未来が開けるの。私が自立して生きていくためには、今は父さんの暴力に耐えてでも、看護学部に受からないといけないの。だから、あともうちょっとなの・・・」

 そこまで言うと、ルカは黙った。泣かなかった。蒼白い月明かりに照らされた目の前の海をキッと、見つめていた。瞬きもせずに、射抜くように。しばらくして、一回瞬いた時、線のように細くしずくが零れた。決して負けない、強い意志を感じた。針のように細い片足で、倒れまいと必死に踏ん張るフラミンゴ。凛として、美しいと思った。ルカは、きっと体を売るくらいの状況になったら、平気で名誉の死を選ぶんだろうなと思った。険しい山の頂きに咲く高山植物のような高潔さ。

「悪かったね・・・あと、少しだもんね。がんばろうね。俺が大人だったら、今すぐにでも連れ出してあげられるのにね・・・」

「ううん、今日こうして海に連れてきてもらっただけで元気が出たわ。明日からまた頑張れるわ。」

 ルカが笑った。それは、無理やり作った笑顔だったかもしれないけれど、彼女の強さのように思えた。ユイやミカのような生き方。ルカの生き方。どちらも、力いっぱい必死で生きている。いろんな生き方がある。自分はどう生きるのか。何ができるのだろうか。そう自問した裕士にルカは聞いてきた。

ユーシくんは、どういうお医者さんになりたいの?

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

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2009年6月26日 (金)

立て!鏡のような波頭の上に 45話 DV

「働いて、一人暮らしかぁ。凄いね。俺、受かる事に必死で、そこまで考えてなかったよ。」

 ルカは、また黙っていた。1分に一回だろうか、忘れた頃に一周する灯台の光が再びよぎった。ルカは遠くを見たままだった。長い睫毛が綺麗だった。

「お父さんはね、ほんとは優しいの・・・。だけど、勤めている会社が、業績が厳しくて、いろいろ無理してるらしいの。それで、昔はたまにだったんだけど、時々家で暴れることがあって。お酒も毎晩手放せないようになって、最近は、膨らんだ風船が破裂するみたいに、しょっちゅう暴れるようになったの。」

「大変だね・・・」

 裕士はなんて言っていいか判らなくて、それだけ言うのが精一杯だった。が、ルカは裕士に話している、というよりは、自分自身に話しているようだった。

「そんな会社ならいっそのこと、潰れてしまえばいいのにね。そうじゃないのかなぁ、うちのお父さんが弱すぎるのかもね・・・。」

「でも、子供に暴力を振るう理由にはならないよ。」

「うん・・・。お父さんは今でも好きだし、本当に感謝してるの。でもね、私は小さい時からずっと、お父さんのDVに耐えて来たから。経済的に自立できたら、とにかく早く家を出たいの。」

**************【次回へ続く】*********************

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2009年6月19日 (金)

立て!鏡のような波頭の上に 第1章 初夏~ユイ編あらすじ

裕士は、医学部志望の予備校生。ナンパで知り合った少女ユイと一晩過すが、有り金を持ち逃げされる。取り残されたベッドの上で、裕士はかつて味わったいくつかの惨めな出来事を思い出す。海辺の田舎町で必死に生きる若者を、溢れる感性と静謐かつ拙い文章で描く青春スペクタクル短編。

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

第1章 初夏~ユイ編を削除して、上にまとめました。 ↓クリックよろしく!Banner2_7

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2009年6月 4日 (木)

立て!鏡のような波頭の上に 44話 他愛も無い会話

ルカは傷の無い右の顔側、つまり裕士の左側に座った。女心だと思った。それを察すると裕士は何も言えなかった。気を逸らそうと、共通の友達、伊藤峻や横山良幸の近況を無理矢理、話した。

「シュンもヨシユキもケイゴも皆、大学違うけどさ。D1とかいうサークルに入ってさ。夏はテニス、冬はスノボとか行くんだってさ。って言ってもシュンもヨシユキもテニスって柄じゃないからさ。専ら飲み会要員らしいぜ。ほぼ、毎週合コンらしいよ。シュンはヘルペス移されたけど、五股もかけてるから、誰から移されたか判んないってさ。」

「シュンくんはかっこいいからね。モテるよね。」

「でもあいつさ、好き嫌いがはっきりしてて、可愛くない娘の前じゃ、愛想笑い一つできないんだ。顔にはっきり出るんだ。ヨシユキは気を遣って、そっちの娘のフォローばっかしてるから、みんなからブス専とかあだ名つけられちゃってさ。本人その気無いのに、可愛そうだぜ。ヨシユキも人が良すぎるんだよな。」

「女の娘もそういう優しさに気付くと良いんだけどね。あ、ケイゴ君、この前駅で見かけたけど、高校の時と凄い変わったよね。アフロヘアにしてたし、日焼けもして、髭も生やして、もう別人。高校の時の華奢で、可愛いイメージ、もう無いよね。」

「ああ、あいつはちょっと突っ走ってるよな。卒業旅行で、オランダ行って変わったよ。だってこの前さ・・・」

 と言いかけて、口を噤んだ。山﨑圭吾宅のマリファナ・パーティは流石に話せない。大学に行って、コンパやサークルで活き活きとしている彼らの活動報告をしている内に、自分には高校卒業後、取り立てて話す事など何も無い事に気付いて、裕士は虚しくなった。

「みんな、楽しそうだね。」

 ルカの横顔に灯台の灯が走った。彼女は膝を抱えて、その上に顎を乗せ、遠い、遠い目をしていた。ルカはどんなキャンパス・ライフを過すのだろうか。

「ルカは、大学行ってサークルとか入るの?」

「サークルかぁ。あんまり考えた事無かったな。私は、とにかく早く、看護師国家試験、取りたいから。」

「凄いね。俺、遊ぶ事しか考えて無かったよ。医師国家試験は卒業後でも良いかなー、なんてさ。その前に医学部に受かるかさえ判んないし。こんなに苦労して大学行くんだから、行ったら目一杯遊びまくろうって。ルカは大学行って遊ばないの?」

 何か彼女の爆弾に触れたのだろうか。彼女は、黙り込んだ。しばしの沈黙が流れた後、ずっと遠くを見たまま、彼女は重い口を開いた。

「家を出たいの・・・。大学行ったら、働いて、学費も自分で稼いで、一人暮らしをしたいの。」

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

構想は決まっているのですが、このまま行くと原稿用紙300枚を優に超えてしまいそうです。初めて小説なるものを書いたので、距離感が判りませんでした。やばい、はしょらなきゃ。次の構想も浮かんできたし、大作家じゃないんだから、短編で良かったのだ。でもね、どうしてもこれを書かなきゃ私は次へ進めないのです。早く終わらそ、終わるかな。ちょっくら充電して来ま~す

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2009年6月 3日 (水)

立て!鏡のような波頭の上に 43話 晩夏/今から早朝サーフィンに行くぞ!

 江ノ島海岸は、湯河原の静かな浜に比べて都会的な華やかさを帯びていた。海岸通りに立ち並ぶ、ラスベガスのホテルのようにポップな、そして色とりどりの電飾のラブホテル群を通り抜けて、海辺に出た。海岸では、何組かの大学生のようなグループがきゃっ、きゃと奇声をあげながら、あちらこちらで花火を打ち上げていた。突発的に上がる打上花火が、不意をつかれたサプライズのプレゼントのようで奇麗だった。あと数日で九月になる。取り壊され始めた海の家も数軒あった。まだ残っている海の家には灯りが点り、中では人々がお酒を飲んでいた。皆、最後の夏の余韻を惜しんでいるかのようだった。裕士とルカは、何も言わずに手を繋いで、猫の額ほどの江ノ島海岸を一回り歩いた。力無い波の音は穏やかで、何も干渉しない距離感を保っているように優しかった。海辺を見下ろすコンクリートの階段には、二つの黒い影が等間隔で、まるで一休みする鳩の群れのように並んでいた。あそこに座ろうか、と裕士は促し、影の途切れた壁際の階段に二人は腰を下ろした。

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

忙しい5月が終わった!日も長くなった!今日からやっとサーフィン再開だ!!私は、波情報はここで確認しています。私の小説の舞台となっている湯河原吉浜のライブカメラはこちら。(湯河原町提供)

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2009年6月 1日 (月)

立て!鏡のような波頭の上に 42話 日曜日の夜さ♪連れ出してあげる

 裕士は追った。彼女の顔の怪我を見て、追わずにはいられなかった。じきに追いつくと、ルカは走りつかれたのか、立ち止まった。立ち止まると、傷だらけの顔を隠すように、裕士の胸にしがみついてきた。そして、泣いた。

 ただ、ただ泣き続けた。裕士は立ち尽くして、抱きすくめる事しかできなかった。

「裕士くんだけには、見られたくなかった・・・」

 ルカは、ぽつりと呟いた。

 どうしたの?とは、裕士は聞けなかった。聞いてはいけないような気がした。ほどなくして、ルカは泣き止んで歩き出した。

「お父さんに、お酒を買いにいかないといけないの・・・。」

 裕士は黙って横に並んで、酒屋までの道のりを一緒に歩いた。酒屋までは、二人は何も喋らなかった。握ったルカの手が、妙に冷たい事を裕士は気にしていた。酒屋に着くと、酒屋の蛍光灯に目を細めて、ルカは店に一人で入っていった。迷いもせず、慣れた様子で棚の前に行き、ある銘柄の一升瓶を手にすると、彼女はすぐに出てきた。帰りは、川沿いの道を歩いて帰った。裕士は、一升瓶を持ってあげた。瓶は思いのほか、ずしりと、重かった。二人は、川を見ながら歩いた。川は音も立てずに静かに流れていた。漆黒の空を映した水面は、まるでこの世の全てを飲み込んでしまうように、重く、巨大な生き物のようにうねって流れていた。しばらくして、ゆらぐ水面に心解かされたように、ルカが話し始めた。

「ごめんね、急に行けなくなって・・・」

 ルカの顔に只ならぬ事態を察せざるを得ない裕士は、ううん、と首を振った。

「お父さんがね、時々、暴れるの・・・。お父さんの事悪く言いたくないんだけど・・・」

 と言って、ルカは再び泣き出した。

「いいよ。」

 裕士は、ルカの頭を撫でた。

「ほんとうはね、今日凄く楽しみにしてたんだ・・・」

 泣きじゃくるルカを抱きすくめながら、裕士は自分でも思い掛けない事を提案した。

「今からでもいいから、行こうぜ!」

「え、でも・・・」

 裕士は、ルカの手を握って、走り出していた。ルカの事情は良く判らない。ただ、決して彼女にとって良い状況であるはずが無い。とにかく、遠くへ。ここじゃない、どこか遠くへ、彼女を連れ出したかった。俺が連れ出してやる。信じるなら、着いて来い!きっと、今よりは良いはずだ!

 ルカのマンションに着くと、裕士は、自分でも驚くほど冷静に彼女を言いすくめた。

「酒を置いたら、すぐに出て来い。行こう。今日は何が何でも約束通り、海まで行こう!」

 ルカは、裕士の気迫に押されたように、頷いて、家に走っていった。裕士は、ルカの後ろ姿に投げ掛けた。

「三分経っても出てこなかったら、俺が連れ出してあげる!」

 裕士が考える間もなく、すぐにルカが飛び出してきた。ブルン・・・バイクにキーを差し込み、ルカにヘルメットを被せると、飛び出すようにバイクは走り出した。

「しっかりつかまって!」

 ルカが裕士に回した手にぎゅっと力が入った。

**************【次回へ続く】*********************

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今日のインスパイアは、これ↓。COMPLEX「恋をとめないで」吉川さんの無茶苦茶振りが大好きです。 ↓クリックよろしく!Banner2_7

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2009年5月28日 (木)

立て!鏡のような波頭の上に 41話 3 small words

 翌日、裕士は朝九時から図書館に詰めた。途中、辺りを見渡すばかりで勉強には全く身が入らなかった。約束の11時になってもルカは来なかった。約束では、バイクで江ノ島に行くはずだった。裕士は、図書館の入り口に停めたバイクの上で、パンを齧りながらルカを待った。こんな日に限って空は空々しいほど素晴らしい天気で、その太陽の明るさが逆に裕士を空しくさせた。バイクに掛けた二つのヘルメットは風に吹かれたままで、やがて、そこには西日が差し、ついには図書館の木立の長い影に包まれた。図書館の閉館時間が来て、裕士は図書館を追い出された。バイクに跨ると、裕士はルカの家の前まで行ってみようと思った。

 ルカの家に着いた頃には、空はもう薄い炭をこぼした様な暗さになっていた。マンション二階のルカの部屋にはオレンジ色の灯りが灯っていた。裕士は、道端の電信柱の脇にバイクを停めて、シートの上に腰掛けると、煙草を吸いながら、その灯りをじっと見つめた。煙草を三本吸ったところで、ルカの部屋の明かりが消えた。しばらくして、マンションの門から夕闇に包まれた女性の影が現れた。影はゆっくりとこちらに向かってくる。電信柱の下に来た時、斜に差す街灯の光で顔が見えた。ルカだった。ルカは、力なく下を向いたまま歩いていた。

「ルカ!」

 裕士が声を掛けると、少女は顔を上げた。裕士を見ると、無防備に驚いたように顔を隠し、小さく三言呟いた。

「ナ・ン・デ?」

 その言葉は、そこにいるはずでない裕士を激しく拒絶しているようだった。そこに居るべきでない、とも言っているようだった。

 驚いたのは、裕士も同じだった。顔を見上げて目が合った時、長い前髪に隠されたルカの左目が赤く腫れているのを認識したからだ。

「ドウシタノ?」

 裕士が聞くと、ルカは今度は力強く三言だけ投げ捨てて、走り去った。

「イヤダ!」

**************【次回へ続く】*********************

注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

今日はJosie and The Pussycats の「3 small words 」に背中を押されて書きました。疾走感溢れるこの曲を聴いていると、嫌な事も吹っ飛び、意欲を掻き立てられます!大好きな曲です。 ↓クリックよろしく!Banner2_7

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8年以上前の古い曲ですが、気に入った方はお早めに↓でどうぞ。絶版にならない内にねheart03

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2009年5月25日 (月)

井村雅代氏にみる「叱り」の極意

 立場上、人を叱る事がある。スタッフ、クライアントは運命共同体である。彼らの失敗は、私の失敗でもある。そして、私は諫言を呈するために、税理士として顧問料を経営者から頂いている。御用聞きでは税理士稼業は務まらないと思っている。だから、私で気づく事があれば、諫言を呈す。ただ道を歩いている他人、知人なら私には関係ない。

 NHK「知るを楽しむ」で放映された元日本代表シンクロナイズド・スイミング監督・井村雅代氏は、叱りのスペシャリストだ。本物である。番組で放映された彼女の言葉を金言として、備忘する。

**********井村 雅代*******************

★私、叱ってるって感覚ないんです。本当の事を言っている。

★人間は、信じるに値する。

★どうにもならない事なんか世の中にはない。必ずどうにかなる。

★性格に合わせて叱る。〈中略〉例えば、天才肌の(武田)美保に対しては、美保は強いから、この人を傷つけてやろう、と叱った。

★人は誰しも今よりも良くなりたいと思っている。(だから私は)その子をなんとか今よりも変えてやろう、その気持ちしかないんです。

★叱るのはその場ですぐ。言いそびれた時は、自分(井村)が悪かったんだと思い、もう言わない。

★叱ったら必ずフォローする。だめだ、と言ったら必ず良くなる方法を言う。

★叱る時は、冷静さを失わない。

★(グループ演技の場合、選手の)どこにレベルを合わせるか―、何でも一番上の選手に合わせる。

↓小山(以下は、番組の録画を消してしまったので定かではないが、確かこんな趣旨だった。)

監督を辞めた現在でも、意見を求められる事がある。OBとして、的確な助言を言えるためには、常に自分の目が、世界のトップレベルの現場に触れていなければならない。そうでなければ、傍迷惑なだけだ。

*************************

経営者としては、私自信は人に叱られる事が本当に少なくなってしまった。しかし、私は、自分のビジネスや自分に係りのある事にしかとんと興味がなく、その他の事柄に関しては欠如している。そんな私を叱ってくれる人がいたら・・・、確かに、耳は痛いが、手を合わせて感謝です。

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2009年5月20日 (水)

立て!鏡のような波頭の上に 40話 超プラス思考

 呆けた様に時間ばかりが流れた。時計の針は午前二時を差していた。ルカは理由を言わなかった。それを数少ない会話から、推理小説を読み解くようにほぐしていった。裕士は、ルカとの会話を思い出す。

――行くのいやになった?

――ううん、そうじゃないの

 「ううん、そうじゃないの」。この一点に裕士は一縷の望みを託した。彼女は俺の事が嫌いな訳ではない。何らかの外的要因により、自分の意思とは別のことで来れなくなったのだ。きっとそうだ。

――何も聞かないで

 と、彼女は言った。しかし、言外から匂い立つのは、「助けて!」という、彼女の悲鳴のような気がしてならなかった。明日、図書館にルカが来なかったら、ルカの家まで行ってみよう。

 そういう結論に達すると、気が楽になり、程なく裕士は眠りについた。超プラス思考な男、めげない男、といえば聞こえは良い。が、裕士の読みが外れていれば、自分に好都合な事この上ないこの思考回路は、もうストーカーの発想である。プラス思考とストーカーとの分かれ目は、自己を客観視できるか、それにもう一つ付け加えるならば、相手の気持ちを汲めるかどうかであろう。半と出るか、丁と出るか。ルカに再び会った時、最初に彼女の顔が曇ったなら、裕士は全てを諦めるつもりでいた。

**************【次回へ続く】*********************

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«立て!鏡のような波頭の上に 39話 涙の電話

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