立て!鏡のような波頭の上に 47話 彼が医者になりたい理由
裕士は愕然とした。自分はお金を稼ぐために医者を目指したが、取り立てて成りたい医師像というものが無い事に気付かされた。赤ひげ先生のような篤い気持ちが自分にあるのかどうか判らなかった。病弱な自分を助けてくれた医師に感動して、はたまた、肉親の手術に立ち会って直してくれた医師が神のように見えて憧れた云々、といったことは全く無く、齢十九に成るまで至って健康、医者にかかった事は健康診断くらいしかない。ネットサーフィンをしていて、或る市の年収が公開されていた。その給与序列を見ると市役所の最高位たる市長は年収1千万円強。なんとびっくりしたのは、市長の上に「医師」が年収三千万円で君臨していた。これを高校二年の時に見て決めた。さらにネットサーフィンで辿り着いたのが、レーシックの執刀医募集の年収四千万円也。あーもうこれしかないと思った。週五日勤務で四千万円はいらない。週四日勤務で年収三千万円もあれば充分だ。医師の求人サイトには、週四日の募集も出ていた。
「レーシックの執刀医で、週四日勤務で年収三千万円で、あと三日はゴルフやクルージング三昧の医者になりたい。」
とはルカに言えなかった。あまり不純すぎる。はたしてこんな金の亡者のような自分が人様の生命を扱う医者に成っていいのかさえ疑問に思えてきた。保険診療点数を稼ぐために、ホームレスを集めて入退院を繰り返させ、診療報酬を不正受給して逮捕された病院のニュースが頭に浮かんだ。黙り続けている裕士にルカは自分の動機を話してきた。
**************【次回へ続く】*********************
注:この小説はフィクション(嘘)です。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。


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